「そして彼女の腹を力いっぱい殴った。
おれのこぶしは彼女の背骨に当たった。腹の肉に手首まで埋まった。手を引き抜いた。力を込めて引き抜かなければならなかった。腰にちょうつがいがついてるみたいにふたつに折れて、彼女は前に倒れた。
帽子が落ち、頭がまっすぐに床にぶち当たった。そして体が前に一回転した。仰向けに倒れ、目が飛び出て、頭が左右にゆれていた。
彼 女は白のブラウスと赤いクリーム色のスーツを着ていた。新しく買ったのだと思う。前に見た覚えが無かったから。ブラウスの前をつかんでウエストのところま で引き裂いた。スカートを頭の上にまくりあげた。彼女は全身を引くつかせ、ふるえていた。変な音を出していて、まるで笑いそうになっているようだった。
そのとき、彼女の体の下に水たまりが出来ているのに気が付いた。
おれは腰を下ろし、新聞を読もうとした。紙面に目をこらした。だが明かりが足りなかった。字を読むにはまるで足りなかった。そして彼女が絶えず動いていた。じっとしていられないようだった。
気 がつくと、何かがおれの足に触れていた。見ると、彼女の手だった。ブーツの上からおれの爪先を左右になでていた。足首からふくらはぎのほうへあがってき た。何か気おくれして、おれは足を引っこめられなかった。すると彼女の手はもっと上まで上がってきて、おれの股ぐらをつかんだ。それでもなかなか身動きで きなかった。ようやく立ち上がり、引き離そうとした。しっかりつかんではなそうとしなかった。
二、三フィート引きずったところで、ようやく手が離れた。」
「おれの中の殺し屋」 ジム・トンプスン 1952年 三川 基好訳 Amazon
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